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銀狼
第8章 雨(アマ)の鎮魂歌
「…お前の好きなように呼べばいい」
「え…? わたしが勝手に決めていいの?」
「構わない」
銀狼はそう言って黙ってしまった。
その目は彼女の唇の動きを追うために、真っ直ぐ向けられたままだ。
「ン──っ…と」
彼は待っているのだろうか。
セレナは焦って考えを巡らす。
“ 名前って難しいわね… ”
銀狼──
これは名ではない。
これでは呼べない。
“ 彼は狼… ”
銀狼、……ロウ……。
「──…ロウ、……『 ロー 』というのはどう?」
「ロー…」
彼には聞き慣れない発音だった。
その響きの意味するところもわからないが…。
「駄目?」
「…呼ぶのはお前だ。それが良いならそう呼ベ」
どのように呼ばれようと、銀狼に──
ローには余り興味がなかった。
再び歩き出した彼の腕の中で、セレナがもう一度小さく呟く。
「…ロー」
「……」
興味はないが、彼女のその声が
ローの鼓膜を心地よく揺さぶった。
未だに違和感が拭えずとも、理解してみるのも悪くないと、そんなふうに感じたのかもしれない。