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銀狼
第8章 雨(アマ)の鎮魂歌
暮色は消えた。
厚い雲が現れ
滝とは別の水音が、彼女の耳に届いた。
ポチャ ──ポツッ
セレナは胸の前で手を組んだ。
組んだ手に、閉じた瞼に──
落ちる雨粒の異様な重たさよ。
次第に雨の勢いは増していき、彼女の髪をドレスを、容赦なく濡らした。
それに合わせて、徘徊していた狼達は各々の巣に入っていく。
野生の獣にとって雨で体温を下げることは命取りなのだ。
…そうして、ただひとり祭壇前に残されたセレナ。
彼女は両手を握り合わせ、星のひとつとして臨めない吹き抜けの空を仰いだ。
雲の縁を白く照らす…其処に在る筈の月を
雨雲の向こうに在る月を、濡れた顔で見上げた。
この状況で──彼女は何を祈るのか…。
仔狼の安否か
ローの帰還か
それとも、新たな流血の可能性を嘆いて…
それを祈っているのだろうか。
しかしセレナの祈りが届くには
空の月はあまりにも遠く
其の光はあまりにも弱々しかったのだ…。