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銀狼
第10章 討伐
そっと身体を離すと…
「怪我をしているのか?その腕…」
「ああ…これ…っ」
ドレスを破りとられた彼女の左腕の、まだ微かに残った傷痕が侯爵の目にはいる。
セレナはそれまで意識していなかったのか、父に聞かれて思い出したように傷を確認した。
「大した怪我ではないわ、こんなの……。蔓のトゲで切っただけ」
セレナは小さく微笑んだ。
そんな彼女の目元は柔らかで、傷痕に向けられた視線は愛おしそうにすら見える。
ローの処置のお陰か膿むこともなく、傷はすでに直りかけていた。
「…セレナ?」
「…とにかくっ、わたしは戻ってこれたの。ね、帰りましょう……お父様」
ここ十数日の荒波のような日々が、腕の傷と一緒に過去の物へと変わっていく──。
自分は未来を…前を向いて、ちゃんと街に戻れる。
そんな錯覚をこの瞬間、セレナは抱いたのかもしれない。