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銀狼
第10章 討伐
あの日の幼きセレナの姿が侯爵の脳裏に浮かぶ。
「──…」
もう何を言っても説得は難しい。
この子はそういう子だ…。
アルフォード侯は、列の後方にいる二人の部下の名を大声で叫び呼び寄せた。
恐らくまだ二十歳未満…セレナより年下だと思われる若い二人は、いきなり上官に呼ばれたことで慌てて駆け寄ってきた。
「……君達二人にはセレナを任せる」
駆けつけた彼等に向かって、掴んだセレナの肩をぐっと押す。
「そんなっ…約束が違います、長官!僕も討伐に」
二人の内、ひとりの部下が侯爵の命令に反抗した。
見ればその青年は他の兵士と違い、まだ銃を持っていないようだ。
不満を上げる彼を侯爵が静かに諭した。
「……君達はまだ若い。焦らなくていいのだ。何事にも、受け継ぐ者が必要なのだからな」
「しかし…っ」
「その覚悟は我々が無駄にしない。どうか…セレナを任されてくれないか」
「長官殿……!! 」
上官としてのアルフォード侯の言葉が、部下である青年の不満の口を塞ぐ。
…しかし、何も皆が納得したわけではない。
「娘を無事に送り届けてくれ」
「…っ…嫌よわたしは帰らないわ!お父様聞いて! 狼たちは──ッ」
「…セレナ、狼を野放しにするという選択肢は我々に無いのだ」
「……っ」
依然として、隊を止めようと叫ぶセレナ。
侯爵は彼女に背を向けて、再び馬の背に跨がる。
もう…その顔を振り向かせることはない。