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銀狼
第11章 儚き運命
疲労と困憊の溜まる長期戦。
辺りには夥しい数の死体。
まさに戦場の光景。
複数の爆発音が轟き、またひとつと轟くと
次の瞬刻には──命がモノへと変わって転がる。
そのすぐ隣では肉を破る残虐な音が、惨烈な悲鳴と重なり曲を奏でる。
聖地に描かれた地獄絵図は
憎しみが支配した殺し合いだ。
…だが戦いが長引けば長引くだけ、その戦局にも変化が現れた。
森の獣が長年恐れてきた物…鉄と火の力。
さらに頭数の違いから、分があるのはやはり人間達の方であった。
銀狼に手こずる兵士だが
一方で狼の数は確実に減っていく。
動きの鈍った狼から銃弾の餌食となり──
至近距離でなければ噛み付けない彼等は、兵士に辿り着くまでに次々と殺されていった。
・・・ガルルッッ!
「…うわっ!! コイツ…!! 」
──キャンっ
茂みから現れたまだ子供の狼が固いブーツに歯を立てて、驚いた兵士が銃を両手で掴み殴り飛ばした。
「このッ…!! 」
飛ばされた狼がよろけて立ち上がり、此方を向いて背を縮め低く唸る。
すぐさま弾射しようと真正面に構えた瞬間
「……ッッ!! ‥ぅ゙‥っ」
横から強く…別の何かに頭突きをくらい兵士は突き飛ばされた。
「また!…化け物が…っ」
グルッ
「撃てええ!」
仔狼を助けようと跳び込んできた銀狼は、周りを囲まれて一斉射撃を受ける。
紙一重で飛び上がるも腹と腕を銃弾が掠めた。
傷だらけの彼の毛皮は──
深い朱色に染まっている。
「──…逃げたかッ」
飛び上がった狼の影が、暗がりの空に浮かぶ丸い月と重なった。