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銀狼
第11章 儚き運命
侯爵もまた、目の前で人へと変わった狼の姿に動揺していた。
彼が追ってきたのはまさしくこの生き物。
だが実際に不可思議な光景を目の当たりにすれば、やはり困惑を隠せなかった。
「貴様が…その姿でセレナを惑わせたか…!! 」
「──…」
侯爵の声は怒りに震えていた。
何故か憎き狼を庇う娘…
この化け物が何か吹き込んだに違いない。
「卑しい獣が……!! よくも、私の娘の純真な心を惑わせたな」
「…ふん、卑しい…か」
セレナという名が出てきたことで、銀狼の表情に僅かな変化が起こった。
細まった目が記憶の糸を辿りながら…
瞳には幽かに熱が籠る。
だが其れすらも、すぐに消えて。
「甞て此の地に住み着いた人間達は、我等を神と崇めていたものだ。…狼を『繁栄』の象徴とし…、我等にすがることで自らの豊かさを得ようなどとしていた」
それは実に馬鹿馬鹿しいことであり、勝手な信仰はこの上ない笑い話だった。
だが──。
「──…あのような遅れた先住民と、我々を一緒にされては困る」
銀狼の話に対し、アルフォード侯はそう言葉を返した。
「……そう、思うか?」
血生臭く生ぬるい大気が草を揺らす。