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銀狼
第3章 銀狼
私はオオカミだ…──と。
そして男は片膝を地につくと、俯く彼女の耳に自らの口を近づけた。
「聞くが娘よ、のこのこと現れた旨そうな仔羊を、何の手もつけずに帰すオオカミが存在しうると思うのか…?」
「……ッ」
「答えろ…」
「い、いません…」
「……、よくわかっているな」
「……!! 」
自分の座る岩肌を見ながらセレナの顔は蒼白となる。
男の刃のような冷笑が自分を見下ろしている光景が直接見ずともはっきりと伝わるのだ。
“ この化け物は、わたしを殺す気なのよ…っ ”
──ならば、と
込み上げる悔しさが恐怖の後を追う。
“ ならどうしてわたしはこうして跪いているの? ”
逃がしてもらえないのなら
大人しく喰われるくらいなら
いっそ……!!
座ったまま自身の脚に手を伸ばし、ドレスの中に隠された短剣を掴む。
「食べられるくらいなら…っ…ひと思いに殺された方がマシだわ!」
「──!? 」
唐突な反撃だった。
どこからともなく彼女が振り上げた刃物を見て、銀狼は近付けていた顔を離した。