この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
銀狼
第5章 逃走
日はとっくに昇りきったようで、昨夜の月と同じ位置に陽の日が見える。
それが照らしているのが狼達の巣窟。
いや、王国というべきだろうか…
切り立つ崖に囲まれたこの場所は、日常とかけ離れた異世界であることを改めて感じる。
「………何もいない」
だがそこに狼の姿は無かった。
“ あれだけいた狼が一匹も……? ”
動いているのは滝の飛沫と風に揺れる草木だけ──
下を覗き込んで息を呑んだセレナは、警戒した様子で地面を睨んでいた。
──今から、ここを降りなければならない。
飛び下りる事は先ず不可能で
唯一の道は崖に沿って造られたこの階段。
階段と言っても屋敷にあるような、そんな物じゃない…。
少し気を抜いただけで簡単に踏み外してしまうだろう。