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銀狼
第5章 逃走

日はとっくに昇りきったようで、昨夜の月と同じ位置に陽の日が見える。

それが照らしているのが狼達の巣窟。

いや、王国というべきだろうか…

切り立つ崖に囲まれたこの場所は、日常とかけ離れた異世界であることを改めて感じる。


「………何もいない」


だがそこに狼の姿は無かった。


“ あれだけいた狼が一匹も……? ”


動いているのは滝の飛沫と風に揺れる草木だけ──

下を覗き込んで息を呑んだセレナは、警戒した様子で地面を睨んでいた。



──今から、ここを降りなければならない。


飛び下りる事は先ず不可能で

唯一の道は崖に沿って造られたこの階段。

階段と言っても屋敷にあるような、そんな物じゃない…。

少し気を抜いただけで簡単に踏み外してしまうだろう。


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