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略奪貴公子
第10章 夫人が化ける夜
クロードが黒い仮面を彼女に差し出す。
「今宵は仮面舞踏会です。参加するものは皆が顔を隠して…相手の名を尋ねることも禁止です」
「これで…わたしの素性はばれないのですね?」
「だと良いですね」
本気で心配するレベッカに対して、クロードは実に軽い態度で返事をすると、自らもその顔に白いマスケラをつけて前を見た。
止まった馬車の扉をレオに開き、先にクロードが外に出た。
レベッカはまだ…仮面をつけるのに手間取っている。
「──こちらに」
彼は手を差しのべた。
レベッカはすぐには、素直にその手に頼ることができなかった。
座ったまま躊躇する。
ここを降りれば、自分はまた──
「…また、余計なことを考えていますね」
「…!」
椅子に置いていた腕をとり引き寄せられ、バランスを崩したレベッカを男の胸が受け止めた。
「それほど仕置きが欲しいのですか?」
「…んっ…む」
結い纏めた髪に手を添え、ぐっと頭を固定すると、彼はレベッカの唇を奪う──。
「…ハァ、ハァ」
「──仮面を渡しなさい」
「…はい」
彼女から仮面を受け取り、その紐を器用に結んで小さな頭に固定する。
黒の仮面は柔らかな羽根で飾付けられ、目元のダイヤが透明な光を放っていた。
「今より」
「……」
「今より私は二人の時、あなたを夫人ではなく……レベッカと呼ばせて頂く」
こうして、素性の明かせぬ一組の男女が、宴の城へと足を踏み入れた──。