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略奪貴公子
第3章 潜む影には……
それからあっという間に半月後となる。
笑顔で送り出されるレベッカは、同じようにうやうやしい笑みを浮かべて馬車の前で振り返った。
「御義父様、御義母様、行って参ります」
いよいよ嫁ごうという十九の乙女は、毅然(キゼン)とした態度で公爵家へ向かう馬車に乗り込む。
たったひとりの従僕を連れて彼女は旅立った。
「……」
レベッカは前に座る従僕と言葉を交わすこともなく窓の外を眺めるばかりだった。
“ ……さようなら ”
ここがレベッカの故郷かと問われれば、それはどうか彼女にもわからない。
しかし紛れもなく、ここは彼女が幼少より過ごしてきた土地。
戯れた森、憩んだ木陰
“ ──さようならアドルフ ”
彼女の青春が、ここにはあった。
彼女は後悔などしていない。
義父母を恨む気持ちもない。
結局あの家に完全に馴染むことはできなかった…。けれど、今では申し訳ないとすら思っていた。
彼等にはなんの悪気もない。こうして高貴な家に嫁ぐことこそが幸せなのだと、彼等は本気で信じているのだから。
身寄りのない自分をこうして引き取り育ててくれたオイレンブルク家。
仮染めの地の景色をその目に焼き付け、レベッカは思いを馳せていた。
《 心まで貴族になるな… 》
彼との約束をその胸に刻みながら──。