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略奪貴公子
第17章 ほどかれた真実



 ……ああ、なんて面倒な事態だ



「これ以上、子供のお遊びに振り回されては…ブルジェ家から貴方を任された私としましても、非常に迷惑なのでございます」

「…レオ」

 クロードは本を置いて振り返った。

 伏し目がちにこちらを見ている、自分と同じグリーンの瞳と目を合わせる。

「私を子供扱いとは愚かなことを…。もう十年前とは違うのですよ」

「ですがクロード様、…たとえ十年が経とうとも、貴方の子供じみた困った性格は変わっておりません」

「……」

 クロードのこめかみが僅かに動く。

「レオ、今から庭の草むしりをしなさい」

「かしこまりました。いつまですれば宜しいのですか?」

「そうですね…、雨が止むまでで構いませんよ」

「…承知いたしました」

 主(アルジ)を怒らせたこの付き人は、悪びれず、自分の胸に手を当てて丁寧に礼をする。


 ──そして顔をあげた。


「最後に申し上げたいことがあるのですが」

「聞きません。早く行きなさい」

「…では独り言を」

「──…」

 ドアノブに手をかけたレオ。

「公爵夫人が余計な行動をおこす前に…クロード様は先手を打たねばなりません」

 彼は《独り言》を呟き始めた。

「首飾りを盗むのなら、急いでください」

「──…」

「怪盗の正体が公爵の耳に入る前に…」

「…いや」

 レオの独り言を、クロードが遮る。



「レベッカは…──彼女は

 怪盗の正体を誰にも話さないだろう」



「……!」



「…私の裏切りに気付いて、なお」



 そう言ったクロードの声は切なかった。

 窓を見つめる彼の目は細まり、誰かのことを想っている。



「……」

 レオはそっと振り返り、クロードの目線を追って自身も窓の外を見る。



 ……だから、憐れと言っているのだ



「…クロード様、どうやら雨は止んだようです」

「……」

「草むしりは終わりですから、私は部屋に戻って休むとします」

 掴んでいたドアノブをひねり、レオは寝室を出ていった。

 雨音が止み

 クロードひとりとなったその部屋で、物音の消えた真の沈黙が続くなか──彼は部屋の灯りを吹き消し、その暗闇で静かにレベッカのことを想っていた。







 ──…






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