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略奪貴公子
第18章 退屈な少年

 馬車から降りた青年がひとり、伯爵邸の門の前で、使用人頭の男に会釈した。

「君がこの屋敷に来るのは何年ぶりだろうか。お父様は元気かい?」

「ええ、父の病状も今は落ち着いております」

「それは良かった…。君のお父様がこの屋敷を去られてから、旦那様はたいへん寂しそうに沈んでおられたものだ。こうして息子である君が戻ったことに、旦那様も喜んでおられる」

「それは…光栄なことです」

 微笑みかける使用人頭に、青年は行儀よく返す。

 庭を抜けて二人は屋敷の中へ入った。

「まずは旦那様への挨拶からだ」

「はい」

「それから、クロード様のもとへ君を連れていくことになるのだが…」

 男は何か言いたそうだったのだが、一旦、口を閉ざした。

「旦那様!新しい使用人を紹介します」

「おお、待っていたぞ。君が…そうか、あいつの息子か…」

 寝室のベッドで身体を起こし、この屋敷の主(アルジ)が青年を快く迎え入れた。

 ブルジェ家の当主であるこの男は生まれつき身体が悪かった。

「改めて私に挨拶をしておくれ」

「かしこまりました、旦那様。

 私はこのたびこのブルジェ家に遣わせて頂くこととなりました、レオ…と申します」

「……?」

 レオの挨拶を終えて、それを聞いていた伯爵と使用人頭は疑問に思った。

 普通、目上のものに挨拶するならフルネームで名のるのが常識である。

 ──しかし、二人の困惑を予想していたのか、彼は続けてこのように話した。

「…本日より、私は伯爵の家に遣える身となり、生まれ育った場所も、家名も…今や無縁のものとなりました」

「……!」

「これからは《レオ》という只のひとりの使用人として、ブルジェ家のために身を尽くす覚悟」

「…なるほど、立派な心構えだ」

 レオの言葉に感心した伯爵は、頼もしげに笑みを浮かべた。

「やはりクロードは君に任せることにしよう。少し手のかかる子だが、適任者は君しかいない。頼んだぞ、レオ君」

「かしこまりました」

 レオは深々と頭を下げた。そしてそのまま笑うことなく…彼は伯爵の寝室を後にした。



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