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略奪貴公子
第18章 退屈な少年
「──同情?そんなくだらぬ理由で伯爵家に忍び込むとでも?」
「……」
「あの農民たちへの同情が理由ならば、もっと別の方法で行動を起こしていますよ」
簡単なことだ。
食糧でも衣服でも…金のままでも構わない。農民に渡してやれば解決する話。
わざわざ貴族の館に忍び込む?
そんな回りくどい同情があるはずもない。
ただ
侵入者を捕らえそこない、あげく家宝まで奪われたレイモン伯爵の悔やしむ表情を想像したとき……今まで感じたことのない感覚が沸き起こる。
──四日前の、明け方のあの光景を思い出しながらクロードはそう考えた。
畑を荒らす鹿を撃ち殺した村人が、現れた役人たちに有無を言わせず連行される…。
『 これから彼はどのような罰を受けるのです? 』
『 レイモン伯爵家で、暫く労働に従事することになりそうですね 』
『 …つまり、奴隷か 』
食糧を、金を、生活を奪い、そして、人すらも搾取する──
《 その欲に底はない 》
甘い菓子を頬張る手が休まることはない。
むしろ食べれば食べるだけ…さらに食欲は増すばかり。
『 …醜いな 』
──このとき彼に舞い降りたのは感情は、憎しみでも同情でもない。
強いて言うなら、イラつき、だった。
搾取の連鎖に…
抵抗できない農民に…
《 イラついた 》彼は、伯爵の館に入り込み家宝を奪って逃げていた。
奪い慣れた貴族たちの、誰かもわからぬ相手に与えられた突然の敗北感。その怒りと焦り……。
「……っ」
ゾクッ..
それらを想像したとき、全てが退屈でしかなかったクロードに得たいの知れない感覚が沸き起こったのだ。
そして彼を見ていたレオは感じた。
とても、危険な表情だと…。
「…大変なきっかけを与えてしまった」
レオが後悔しようとも、既に手遅れだったのだ。
包帯を巻き終わりクロードをベッドに横にならせた後、食べ終わった朝食の食器をひくためにレオは部屋を後にした。
パタリと扉を閉める。
「──…!」
閉まった扉を背にしてしばらく立ち止まったまま、彼は廊下の様子をぐるりと見渡す。
それから、溜め息をついて立ち去っていった──。