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略奪貴公子
第3章 潜む影には……

 しばらくの沈黙が続いた後、先に男の方が顔をそむけた。

 ゆっくりと立ち上がった男は、マントについた泥をはたいていく。

 彼女はその後ろ姿を黙って見つめていた。

 ──それと同じくして、新たな灯りが庭園の奥から近づいてきた。

 衛兵たちが帰ってきたのかと思ったが…どうも違うようだ。

 カランコロンと揺れる灯りはランプのもので、どこか危なっかしくやってくる。

 少しして、レベッカはそのランプを握った人間が、まだ小さな子供であるということに気がついた。

 背丈からみるに六、七歳か…。

 その子供は男の元に辿り着くと、彼にそっと話しかける。

「──…さま、あいつら向こうに行っちゃったよ」

 最初の方こそ聞き取れなかったが、静かな夜に子供の声はよく通った。

 レベッカにも筒抜けだ。

「今のうちに逃げようよ」

「…そうですね、カミル」

 男の声が少年にかけられる。

 それはレベッカが想像していたものより、ずっと優しげな声だった。

 そしてレベッカは息を呑んだ。

「──…」

 少年の持ってきたランプの灯りが、男の顔の半分を赤い陰で揺らめかせたからだ。

 仮面をつけていてもわかる、それに隠された美貌──。

 首まで包むマントの襟元からは、男の長い髪がこぼれていた。

 きっと金髪だわ……

 レベッカにはそう見えた。





「え」

 ふいに上を見た少年が声をもらす。

「やっばいよ!!人がいるじゃんっ…女の人がこっち見てるよっ」

「……ああ」

「ほら、あそこ!」

「──わかっている」

 少年に促されるまま男はバルコニーを見上げる。

 …しかし彼女は部屋に逃げ込んだ後で、そこにはもう乙女の姿はなかった。

「…ねぇ!どうする!?どうする!?」

「あの女性が……そうか、なるほど」

 慌てる少年をよそに、男はひとり何かに納得したように頷いている。

「ランプの火を消しなさい。…そろそろ逃げますよ」

 それから男は、少年とともにその場を立ち去った。





──…





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