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略奪貴公子
第20章 揺れる想い


“ レベッカ様──…本気で恋を…していたのですね ”


 儚く魅惑的な彼女の顔を見て、エマはしみじみと感じとった。彼女がどれだけ強く…クロードという男に情を傾けていたのか。


 そして


“ 伯爵はもう……レベッカ様に会いにくることは、ないのですね ”


 同時に現実をつきつけられた。彼女の美しい微笑みの影に、深い悲しみがひそんでいる。

 悪い男に恋をした──。本気で好きになったぶん、裏切られた悲しみは幾許(イクバク)か。

 それでも涙は流さない。気丈なレベッカの姿が、今だけは痛ましい。

「わたしはこれで下がらせて頂きます…」

 自分のほうが感情的になりそうになったエマは、慌てて顔をふせ、食器をさげるためのワゴンを引く。

「エマ…本当にごめんなさい」

「いえ…」


──パタン


「…だめね」

 食欲もなければ、眠くもならない。

 エマが部屋を去った後、レベッカは本棚の書物に手を添えた。

“ わたしは周りの人にも迷惑をかけている ”

 勝手に恋してふさぎこんで…自分勝手だ。

「……あ…これ」

 ふいにレベッカは、ひとつ下の段に置かれた、ひとまわり小さな、そして厚みのある本を目にした。

「…ギリシャ神話」

 それは、過去にクロードから贈られた本だった。







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