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略奪貴公子
第20章 揺れる想い

「レベッカ様…?」

「…っ…エマ」

「また夕食を残されたのですか?きちんと食べないと身体を壊してしまわれます」

 ほとんど手付かずの夕食の皿を見て、メイドのエマが心配する。

「ごめんなさい…なんだか最近、食欲がないの」

 何も知らないエマに悩みを打ち明けるわけにはいかない。けれど彼女は、察していた。

「レベッカ様がそのように思い悩まれているのは、ブルジェ伯爵のことですか?伯爵が姿を見せなくなってから長いですもの」

「…どうしてそう思うの?」

「その…っ、失礼ながら、エドガー様が探している怪盗の絵が、伯爵とそっくりで……だから」

「そう…よね。エマも何度かあの人に会ったものね」

「……!レベッカ様はご存じだったのですか?」

「知らないわ」

「……っ」

 エドガーが用意した怪盗の人相(ニンソウ)書きについてエマが言及すると、レベッカは即座に否定した。

「知るわけないわ……!あの人が何者かなんてわたしにはわからない」

「し、失礼なことを申しました!」

「……それにね、エマ」

「……?」

「仮に怪盗の正体があの人だったとして──それをわたしが知っていたとして──…、わたしの口から、彼を密告なんてできないのよ」

「レベッカ様……!」

 椅子に座るレベッカが、微笑みを浮かべてエマを見る。

 若く瑞々しい美しさをたたえた顔がオイルランプで柔らかく照らされ、大きな瞳がランプの灯りでゆらゆらと揺れている。


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