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略奪貴公子
第22章 決意の涙

「…ッ…、…アドルフ…っ」

 アドルフに抱き付いたまま涙を流し続けるレベッカ。

 彼との思い出が色鮮やかに思い出される。



 あなたはわたしの初恋

 青春のきらめき──

 だけどわたしたちはあの頃に戻れない

 もう…二人は大人になってしまった

 きらめく日々は過去のものになってしまった



「ごめんねアドルフ…!」

「──…」

「ごめんね…ごめんなさい…っ」

「なら俺は、いつ奪えば良かったんだ…!」

 もっと早くに連れ去れば

 お前を伯爵にとられることはなかったのか

「ごめんな…さい……」

「…もう…いい」

 アドルフは彼女の肩を優しく掴むと、そっと自分から引き剥がした。

 ベッドの布団をひっぺがして、ドレスの破れた彼女の胸を隠すようにそれを押し付ける。

「──…ッ」

「…ったく…、泣くタイミングおかしいだろ」

 アドルフは数歩、後ろ向きにさがった。

「襲われたときに泣けよな……」

 彼はぐいっと手の甲で彼女の頬をぬぐう。

 暗くてよく見えなかったが、もしかしたら彼も、同じように涙を流していたかもしれない──。

「…じゃあ…な」

 二人の眼差しが悲しく交差していた時間は、ほんの少し。

 アドルフは彼女に背を向ける。

 床に転がる一冊の本をまたぎ、彼はまっすぐ出口の扉を目指した。

「──…! っ…アドルフ」

 アドルフの手がドアノブにかかったとき、レベッカは彼を呼び止めた。

 けれどアドルフは止まらなかった。



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