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略奪貴公子
第23章 硝子の音
「エマはとっくにわたしの気持ちも、クロードに裏切られたことにも気付いていたのでしょう?だからアドルフに、わたしを城から連れ出すよう頼んだのよね?」
「……はい、その通りです」
「やぁね…っ、あなたにしてもアドルフにしても。わたしの周りの人はみんな勘がいいんだから…」
胸の内を必死に隠してる自分が情けなくなるわ。
レベッカはそんな風に笑っていた。
どうせ全部が筒抜けなら、わがままな自分を非難してくれればいいのに、彼女たちは、レベッカを心配して、優しく見守るだけ。
──それって意地悪じゃない?
「わたしが城を出たあと、……ベノルト様をよろしくね、エマ」
「…はい、誠意を込めてお仕えさせて頂きます」
「ふふっ、頼もしいわね。ありがとう」
城中の召し遣いに慕われて、公爵は本当に人徳者だ。
でも笑っているのはレベッカだけ。隣のエマは涙を浮かべている。
「本当におひとりで行かれるのですか?」
「ええ、裏切り者ですから、わたしは…」
伯爵を信じた
それが彼女の愛だったのだ。
愛した結末がこの形なら、きちんと受け入れる。
「わたしが怪盗を信じたの。
──結果、首飾りは盗まれたわ」
「…どこに行かれるつもりですか?」
「うーん、まだ…、決めてないけれど」
「……、出発はいつごろにっ…?」
「そうね……」
レベッカの表情には、申し訳なさと悲しさにくわえて、どこか清々しい気持ちが見え隠れしている。
「人目につかない夜にするわ。
……誰かさんの悪知恵ね」
空からまた──
違う色の花びらが降ってくる
「…でも最後に確かめたいことがあるの」
「何をでございますか…?」
「忘れ物があるかもしれないから……! 」
エマが見守る彼女の横顔は、今も、割れた窓ガラスに向けられているように見えた──。