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略奪貴公子
第25章 Epilogue──1

 持ち主のいなくなった立派な別荘を、カミルは黙って眺めるだけだ。

「おいてかれちゃった…」

「──…」

「でも、いいんだ。僕は父ちゃんと、母ちゃんと姉ちゃんを守っていかなきゃいけないから。ちゃんと…ひとりでも頑張ってくんだ」

 そう言う彼はどんな表情だったのだろう。

 赤茶色のカミルの髪は、陽の光を反射することでより赤みを増して色付く。

 立ったまま見下ろすアドルフの目線からは、ただそれが見えるだけだった。

「──僕、強くなりたい」

 意思のこもった声でカミルが言う。

「クロードさまが言ったんだ。大切なものを守りたかったら、強くならなきゃ、ダメだって」

「…お前には大切なものがあるのか」

「うん」


 いっぱいあるよ


 ここで初めて笑顔になったカミルは、隣のアドルフを見上げて歯を剥き出した。


「黒髪の兄ちゃん…。強くなるにはどうしたらいいんだろう」

「……そうだな、先ずは鍛えろ。それと読み書きも勉強しろよ。この世界はそれができなきゃナメられる」

「…よみ…かき…?」

 聞きなれない単語にカミルは首をかしげた。

「それ、兄ちゃんが教えてくれるの!?」

「──お前ついさっき " ひとりで頑張る " とか言ってなかったか?」

「ええっ!…だってぇ…」



 けちんぼ

 膨れっ面になるカミル



「…だって、ひとりはさみしいよ?兄ちゃん」


「──寂しくねぇよ」


「へへっ、ウソつきだーー…」


「──…っ」



 ズボンの端を握ってきたカミルの小さな手を

 アドルフは鬱陶し気に払いのける──。



「あー畜生…っ、火傷がいてぇ…」


「大丈夫?僕んちの薬草、あげようか?」



 大人になったカミルが村のリーダーとして、不法な取り立てを行う貴族の役人たちと渡り合うようになるのは、……ここから十年以上も先のことであった。









───…

 

 



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