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略奪貴公子
第4章 来客がお見えです


「──…っ」

「どうか…しましたか……?」

 後ろ手に扉を閉めて

 伯爵が口許に笑みを浮かべている。

 その妖しい口許を──何処かで見たことがあるような

 そんなことを彼女は感じた。

「いえ、何も…っ」

 そして目をそらす。

 密室で男と二人きり。今さらながらこの状況を危険に思う。

 伯爵はそんな彼女の横をすり抜けて、真っ直ぐバルコニーへ足を進めた。

 開いた窓から外に出て、そこから見下ろせる庭園に目を細める。

「上からだとこのように見えたのですね」

「……」

「素晴らしい薔薇の庭だ」

 クスリという含み笑いが、レベッカの耳に届く。

 やっぱりだ。ナニカ、おかしい。

“ この声…やっぱり聞き覚えが── ”

 ドクリと心臓が音を立てた。



 似てるの、あの男と


 同じなの……!




「──…昨夜の……暗闇では

 よく見ることができなかった」





「……!」

 レベッカは凍りついた。

「そんな…」

 目の前のこの優雅な伯爵と

 昨夜のあの男──

 同じだ、なにもかも…!

 気づいた時には、その身体は震えていた。

「もしかして…っ…あなたが…!?」

「──…」

「昨日の怪盗……?」

「…失礼。今の私はブルジェ伯爵。そのような者では御座いません」

「……っ」

 振り返った彼は、靴音を響かせて彼女に近づく。

 一歩、二歩と後ずさるレベッカの驚きようを目にいれて、妖艶で危険な笑みを浮かべた。

 優雅な所作で腰をおり、彼女の耳に唇を寄せる。

「──…またお会いしましょう、公爵夫人」

 すれ違い様にそう囁き、そのまま部屋を後にした──。






──




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