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略奪貴公子
第7章 花ヒラク乙女
ふわりとした若葉の感触を足に感じる。
あたり一面の菫(スミレ)の花の上に座らされたレベッカは、クロードを見上げて問いかけた。
「これが…あなたの好きな春の花?」
「……」
彼はゆっくりと目を瞬かせる。
そして…その顔に笑みを浮かべた。
「公爵夫人の瞳は、この花と同じ色をしている」
「…え…?」
「綺麗に澄んだ紫色だ」
クロードの手が彼女の頬に添えられ
「──ッ 」
突然、互いの鼻が今にも付きそうな近さで、顔を覗きこまれた。
「…え…何、何ですか?? 突然」
「菫の花言葉をご存じですか」
「…花…言葉?」
「ご存じですか?」
「し…知りません…っ」
近づく顔にたじろぎ身を引いても、彼は構わずせまってくる。
座ったまま身体を後ろに引きすぎたせいで、彼女はバランスを崩し、コテりと背後に倒れた。
クロードは彼女の顔の横に片手をつき、上から妖しい瞳で見下ろした。
頬に添えた指が……愛おしそうに肌を滑る。
「菫の花言葉は……
──思慮、奥ゆかしさ、…控えた美しさ」
「──!」
仰向けのレベッカは眉をひそめる。
「それっ…嫌味のつもりですか?」
「──まさか、まさか」
しかしクロードは彼女の言葉を否定した。
「女の中の控えた美しさ…隠された魅力に、男は惹き付けられる」
彼の身体が、被さるかたちで彼女にゆっくりと重なり始める。
「うそ…や、やめてください伯爵…!」
「──フッ、やめてとは今さらな」
「……っ」
クロードの声色が変わった。
彼女は直感的にそれを察した。
おそらく…今の彼は伯爵ではない。
今の彼は──
「クロード…っ」
あの夜と同じ、怪盗に違いなかったのだ。