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略奪貴公子
第9章 招待状

「──レベッカ様?」

 二人の背後から不意に声がかかった。

「……エマ」

 振り返ったそこにはメイドのエマがいた。

 彼女はレベッカ達に近づいたあと、横にいるアドルフに目を向けて問いかけた。

「この方は?」

「わたしの古くからの友人です。アドルフよ」

「そうでございましたか…」

 どこかほっとした様子で、エマはアドルフに笑みを浮かべかけた──。

 しかし、すぐにその笑みも消えて、冷静な態度になる。

「レベッカ様」

 そしてもう一度彼女はレベッカの名をよんだ。

「失礼を覚悟で、申し上げなければならないことがございます」

 彼女はアドルフに向き直る。

「アドルフ様と仰るのですね?」

「ああ」

「あなたは見たところ貴族の殿方ではありません…。たとえレベッカ様の御友人だとしても、このようなかたちで会いにこられるのは困るのです」

「──…そうか」

「待ってエマ、どうしてそんな酷いことを言うの?」

「仕方がないのです!」

「……!?」

 驚いて反論しようとしたレベッカだが、エマの声がぴしゃりと蓋をした。

「レベッカ様は…っ…公爵夫人としてのご自分の立場をわかっておられない…!」

「公爵夫人の立場…!?」

「このように、身分もわからぬ男性と中庭で、二人で親しくしていれば…また、第一、第二夫人の使用人達がレベッカ様の悪口を言い始めます!周りの目はいつも光っているのです」

「ち、違います!アドルフは本当にわたしの友人で…っ」

「……っ」

「久しぶりに、会いに来てくれただけなの……」

 普段は優しく明るいエマが
 初めて見せた厳しい態度──

 その言葉にレベッカは傷付いた。


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