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略奪貴公子
第9章 招待状
「…なら…何をしに来たと言うの」
「あなたに渡したいものがあるからです」
「渡したい、もの?──っ、そんな、口止めの賄賂ならいりません」
彼女はクロードに背を向ける。
クロードはその背に向かって噛み殺した笑いを投げ掛けた。
「──クッ、それは困ったな…」
「……ッ」
「さもないとあなたは私の正体を話してしまうでしょう?……先程のように」
「あれは…//」
レベッカは少し赤くなった。
やっぱり彼に気付かれていたのだ。
自分の考えていることが…なにもかもクロードには筒抜けで、それが無性に恥ずかしく、悔しい。
「──ただ、今、渡したいものは賄賂ではなく」
背を向けるレベッカに、クロードが差し出したもの。
「…こちらです」
レベッカが振り返ると、彼の手には一冊の本があった。
『 ギリシャ神話は好きですから、わたし 』
『 …でしたら後日、神話の書物をあなたに贈りましょう 』
『 いりません。泥棒にもらうものなんて何もないわ 』
──あの時に話した…
「覚えていたのですか?」
「──約束、ですから」
レベッカはその書物をおそるおそる受けとった。
中をパラパラめくると、数々の神話が挿し絵とともにおさめられていた。
「これだけのために…?」
何か礼を言うべきにちがいないのだが、意外なものを渡されて言葉が見つからない。
「──いいえ。まだ別に、あなたに渡したい物があります」
「……何?」
「あなたをお誘いする為の……招待状です」
誘い
……いったいなんの誘いに?
「舞踏会です」
落ち着いた声で彼女はそう告げられた。