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略奪貴公子
第9章 招待状

「泣くのですか…このタイミングで」

「……っ」

 左腕を掴む手にぐっと力が入る。

 クロードは彼女の顔にもう片方の手を伸ばした。

 伸ばされた手が顎を支え…その指が頬に添えられる。

「《 哀しい 》涙は苦手分野だ」

「…ふっ…ッ…く」

「……キスをすれば止まりますか?」

「……!」

 試されているの?

「…っ…キスなんていりません…!」

 レベッカはそう答えた。

 赤い潤んだ目で、目の前の彼を睨んだ。

「……っ」

 その瞬間、クロードはなんともいえぬ苦い笑みを口元に浮かべる。まるで理性のスイッチが切り替わるのを、寸前のところで押し留めたように──。

「そんな風に言われたら…しないわけにいかなくなる」

「──…ぁ」

チュッ

 頬に吸い付いたクロードの唇は、彼女の涙を舐めとった。

 レベッカは戸惑うしかなかった。

 彼の舌ではなく、唇が、涙の筋をたどって頬に吸い付く。

 そして…一度、顔を離したあと、彼女の震える唇にキスをしようとする──

「──…っ」

 しかしレベッカは顔を俯かせた。

 それをうけて、クロードは切なさと愛しさが混ざりあった複雑な笑みを浮かべた。

「……そう…か」

 それから目を細めてから、彼はレベッカの額に口付けした。

「…私はわざわざ女性を泣かせに来たのではない」

 クロードはレベッカを解放する。

 子供をあやすように彼女の頭に手をおいて髪をすいた。


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