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二重生活
第16章 lockset
ドアが閉まり、ふーっと大きく息を吐く。

まだ信じられなかった。
彗君の家で、彗君を見送ることになるなんて。
こんなにドキドキしてたら、体がもたないよ……。

立ち尽くしていると、再びドアが開いた。

「きゃっ! ……びっくりした。どしたの?」

「忘れ物」

手のひらに、ひんやりとした感触を感じる。
それは、銀色に光る鍵だった。

「あ、鍵……そうだよね。閉めたらどこに置いておけばいいかな。ポスト?」

「いや、この鍵、鞠香さんに持っててほしい。……ずっと」

「……え?」

理解するのに数秒かかった。

「いいの?」

「うん。俺がそうしてほしいから」

「……ありがとう」

「あともう一個、忘れ物してた」

そう言ったかと思うと、頬にキスをされた。

赤い顔の鞠香を残して、

「行ってきます」

彗君はポピーの頭を撫でると、出掛けていった。

「ポピー。どうしよう、貰っちゃった……」


合鍵を貰った朝。
初めて、彗君を見送った朝。



それは、二重生活の始まりの朝だった。

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