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二重生活
第16章 lockset
翌朝、彗君が朝食を作ってくれた。

こんがり焼かれたマヨネーズと目玉焼きの乗ったトースト。

「ラピュタパンだよ」

無邪気な笑顔だけで、胸もお腹もいっぱいになりそう。

お皿も使わず二人でトーストを頬張って、コーラをらっぱ飲みして。

「こんなのでごめんね」

と彗君は言ったけど、自分で作った手の込んだ朝食より、作ってくれたシンプルなトーストのほうがずっとおいしいと思った。

「ありがとう。朝からシータ気分になれちゃった」

「それは、よかった。ルシータ王女」

「ふふ」

「あ、そろそろ俺行かなくちゃ」

喋っているうちに、家を出る時間が来てしまった。
ポピーは一度起きたけど、よほど居心地がいいのか、またクゥクゥと寝息をたてて眠っている。

「ポピー、起きて」

声をかけながら、着替えをしようと立ち上がると、

「鞠香さん。よかったら、ゆっくりしていっていいよ」

彗君が言った。

「それで、もしいれるなら、お願いしたいことがあるんだけど」

「お願い?」

「うん。歯ブラシと、あと化粧水とか、何か必要なもの買っといてくれる?」

「私……の?」

「そう。また来てほしいし。消耗品はこのへんで買って家に置いとけばいいじゃん」

Suicaといくらかポケットに入れて、財布ごと手渡された。
断っても、これくらいさせてと言って……。




ポピーと一緒に玄関まで見送った。

「いってらっしゃい」

「行ってきます」

ただの挨拶なのに、なんとなくぎこちなくなった。
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