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二重生活
第18章 存在論
「鞠香~久しぶり」

「沙織!」

沙織がお店にやってきたのは、その週末だった。
ランチや仕事帰りに行くといいながら、仕事が忙しいと、なかなか来れずにいたのだ。
ヘアスタイルを内巻きのボブに変えた沙織は、さらに可愛らしく溌剌とした印象になっていた。
元気そうでよかった。

「すっかり馴染んでるみたいねっ。クールな感じのエプロン姿も似合ってるよ、奥様」

「からかわないで。こんなに楽しくて素敵なところ紹介してくれて、感謝してる」

「でしょでしょう。目一杯感謝してね。あ~ここのカルボナーラ食べたいなって思い続けて、禁断症状出そうだった~」

「OK。カルボナーラね」

相変わらずの沙織に笑ってしまう。


「沙織さん!」

彗君が沙織に駆け寄る。

「わー、沙織さん、髪を切ってなんかまた幼くなりました?」

「ちょっと! 若いって素直に言いなさい」

「あ、ハイ……。じゃあ、そういうことで」

くすくす笑いながら、他のテーブルへ水を注ぎにいく彗君をみて、

「やっぱり、可愛いしかっこいいよね~彗君は」

沙織が溜め息混じりに言った。


「ね。えっと、禁断のカルボナーラ、少々お待ちください」


曖昧に笑って離れる。


沙織には言えない。顔を見たとき、まずそう思った。

だけど、沙織には言わないといけない気もするし、誰にも言えないこのことを、どこか聞いてほしい気もした。

雄一と彗君と会ったことがある沙織、信頼できる沙織、
だからこそ、吐き出してみたい、そう思った。

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