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二重生活
第19章 春眠
身体を重ねたあとの、怠惰と愉悦が同居した幸せなひととき。

彗君の腕の温もりに寄り添っていると、なかなかベッドから降りられなくて、だけど、空は白みはじめていて……。
彗君の寝顔を、(あと1分、もう1分……)そうやって少しずつ延長しながら見つめていた。


気だるい身体を起こし、準備を始めると、敏感に彗君は目を覚まして、

「鞠香さん……帰っちゃうの?」

身体に腕を絡ませてきた。
寝起きの掠れた声は、頼りなく聞こえて、胸がきゅんと締め付けられる。

「送ってくね、危ないから」

二人で家を出る。
人通りのない静かな道を、ぴったりくっついて手を繋いで歩いた。

力が込められる掌を握り返していたら、離れたその手はそこだけ赤くなっていた。

エスカレーターを登りきるまで、ずっと見守っていてくれた優しさを思い出しながら電車に揺られる。
こんな時間に電車に乗るのは、いつぶりだろう。
いつもならポピーと散歩をしたり、朝食の準備をしたり、プランターの水やりをしている時間だった。

早朝に出勤する会社員のパリッとしたスーツ姿、飲んだ帰りの若い男女の寝入っている姿をぼんやり眺めながら、

年下の男の人の家から、旦那が眠る家に帰っている人はきっとこの中で私くらいだろう……と、思った。
電車が原宿に近づくたび、夢のような時間から、現実に戻っていくのを感じていた。
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