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二重生活
第23章 毒りんご
「ねーね。今日さ。飲みに行かない? 付き合ってくれるよねっ?」

「行きたいな。
でも、そのあと少し用事があるの。申し訳ないんだけど、ここで1時間くらい待っててもらえる?」

「待つ待つ~忠犬沙織ちゃん、いつまででも待っちゃう」

「ありがとう」


鞠香は急いで着替えると、駅へ向かった。
雨上がりの水溜まりがキラキラと眩しかった。


彗君は、すやすやと寝息をたてていた。
飲み物を補充し、おでこのシートを張り替え、湯たんぽのお湯をかえて、少し寝顔を見守ってまた駅へ急いだ。

ポケットで跳ねる鍵をお財布に入れて、改札を通る。
駅員と目があった。
今日だけで、四度この改札を通っている。
もしかしたら、奇異な目で見られているのかもしれないと思って、鞠香は少しうつむいた。

原宿についたときには、もう1時間以上が経過していた。

「ごめんね! 今戻ってきたよ」

電話ごしにそう言うと、

「全然OK~今ね、この前のお店に先に入ってるよ~。お料理美味しかったから」

「わかった。すぐ行くね」

今日もペタンコの靴だったから、青信号に変わると走り出した。
たくさん、聞いてほしいことがある。
そういえば、沙織はランチデートの相手とどうなったんだろう。
話したかったらきっと、話してくれるよね。
うきうきしながら、お店へ走った。

「沙織! ごめーんお待たせ」

沙織は、もうワインを飲んでいた。



グラスが……2つ……?

「ねぇ、鞠香! こんなイケメン、なんで隠してたの~」

嫌な予感に振りかえると、リョウ君が立っていた。

「あのあと、お店で意気投合して、一緒に飲もうって誘ったの。ね~?」

「はい。綺麗なお姉さんの誘いは断れませんから」

ニッコリ笑って、リョウ君は言った。

「何言ってるの~? お上手。ね、鞠香も早く飲もうよ」

ケラケラ笑う沙織は、まんざらでもなさそうで不安は募る。
以前、花見で無理矢理されそうになったことは少し話したけど、それがリョウ君とは伝えていなかった。
早く伝えないと……。
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