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二重生活
第23章 毒りんご
(なんだか、風邪ひいてる彗君、いつもに増して可愛かったな……)
子犬みたいに潤んだ瞳を思い出しながら、お店に入った。
彗君がいつもしていることは、いつも目が追っているので自然とできた。
雨のせいか人も少なかったので、カトラリーを磨く。
サーっと時折聞こえる雨音が、耳に心地よかった。
「おはようございまーす」
ふいに声がして顔をあげると、目の前にリョウ君が立っていた。
いつも、この人は気づいたときには間近にいる。
「……」
「そんな警戒した顔すんなって、鞠香。ボクたち、同じお店で働く仲間でしょ? 今日こっち人足りないって聞いたから、雨のなか手伝いにきてあげたの。感謝してね」
ウインクしながら満面の笑みを浮かべるリョウ君……。
彼がフロアに出ると、パッと場が華やぐ。
「あの人……かっこいいよね」
ひそひそと顔を寄せる女性客の視線を一身に受けて、華麗な身のこなしで料理をサーブする。
溌剌とした顔も、甘えん坊な顔も、キリッと引き締まった顔も、人がよさそうな顔も、妖艶な顔も、カメレオンのように自在に操ることができる人。
鞠香は、なるべく目をあわせないように、二人きりにならないように注意しながら過ごすことにした。
息が詰まる思いだった。あんなことをされて悔しいという思いもあったし、怖いとも感じた。
長く感じる時間をやり過ごし、なんとかもうすぐあがれるというころ、
「鞠香~お疲れ」
沙織が来店した。
その存在に心から安堵しながら駆け寄る。
「お疲れ様。もう仕事終わったの?」
「終わったっていうか、終わらせちゃった。青山で打ち合わせだったから、直帰にしちゃった」
へへ。笑いながら言うおどけた顔に吹き出す。
沙織といると、心が軽くなる。
子犬みたいに潤んだ瞳を思い出しながら、お店に入った。
彗君がいつもしていることは、いつも目が追っているので自然とできた。
雨のせいか人も少なかったので、カトラリーを磨く。
サーっと時折聞こえる雨音が、耳に心地よかった。
「おはようございまーす」
ふいに声がして顔をあげると、目の前にリョウ君が立っていた。
いつも、この人は気づいたときには間近にいる。
「……」
「そんな警戒した顔すんなって、鞠香。ボクたち、同じお店で働く仲間でしょ? 今日こっち人足りないって聞いたから、雨のなか手伝いにきてあげたの。感謝してね」
ウインクしながら満面の笑みを浮かべるリョウ君……。
彼がフロアに出ると、パッと場が華やぐ。
「あの人……かっこいいよね」
ひそひそと顔を寄せる女性客の視線を一身に受けて、華麗な身のこなしで料理をサーブする。
溌剌とした顔も、甘えん坊な顔も、キリッと引き締まった顔も、人がよさそうな顔も、妖艶な顔も、カメレオンのように自在に操ることができる人。
鞠香は、なるべく目をあわせないように、二人きりにならないように注意しながら過ごすことにした。
息が詰まる思いだった。あんなことをされて悔しいという思いもあったし、怖いとも感じた。
長く感じる時間をやり過ごし、なんとかもうすぐあがれるというころ、
「鞠香~お疲れ」
沙織が来店した。
その存在に心から安堵しながら駆け寄る。
「お疲れ様。もう仕事終わったの?」
「終わったっていうか、終わらせちゃった。青山で打ち合わせだったから、直帰にしちゃった」
へへ。笑いながら言うおどけた顔に吹き出す。
沙織といると、心が軽くなる。