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二重生活
第4章 初めて
私たちはまわりの人の目には、恋人同士に映っているのかな……。
それか、あと数センチの距離の友達に……。
鞠香はふと思った。

だけど、同時に、その距離はとてつもなく遠いことを痛いほどわかっていた。

それは、今からどこへでも行ける人と、行けない人の違いで、
自分の気持ちだけではどうしようもないことだった。

帰る場所がある。

かつてはそれが、一人ではないと安心できる、とても幸せなことだと思っていた。
でも、今は。
結婚していても、家があっても、寂しい夜はあると知ってしまったから……。

彗君のまっすぐな眼差しと熱い指が恋しくて、もっと一緒にいられたらと思ってしまったんだ……。



ちびちびと大切に飲んでいたハーブティーも、飲み終えてしまった。

始まりがあれば、終わりがくる。

「帰らなきゃ。ワンちゃんも待ってるの」

「……も、か。わかった。ワンちゃん、今度会わせて。俺、動物大好きなんだけど、ペットダメなマンションだから」

「うん。バイトないときに、テラスでお茶しに行こうかな」

正しい距離に修正して、席を立つ。
伝票を探すと、また彗君がいつの間にか支払いを済ませてくれていた。
鞠香がご馳走するための、二次会だったはずなのに……。

「ありがとう、彗君」

「こちらこそ。今日はほんとに楽しかった。また明日ね」

また明日。
同じお店で働いていると、理由もなく会えるんだ。
切なさとともに、小さな幸せを感じていた。



家につき、絶対に雄一を起こさないように気を付けて支度をして、そっとベットにもぐりこむと、彗君からメッセージが届いていた。

<今日は、ありがとう。
シャワー浴びようと思って服脱いだら、
いい香りがしたけど鞠香さんの香りなのかな。
この匂い、すげー好き。
嗅ぎながら寝たいなー。
おやすみなさい〕

ドキドキが止まらなかった。いつものベットに寝ているのに、どこか違う場所にいるような不思議な違和感を感じた。



鞠香は初めて、ケータイにロックをかけた。
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