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二重生活
第6章 義務と演技
「バイト始めてよかったな。最近の鞠香、生き生きしてて、すごく輝いてるよ」

朝食の準備をしていると、経済誌を読んでいた雄一がふいに言った。
ドキリとしてしまったのは、どうしてだろう。

今日は土曜日。土曜日は雄一は付き合いで出かけることが多いので、鞠香もバイトを入れていた。

「すごく楽しいよ。内装も素敵だし、料理が美味しいの」

「そうみたいだね、今度ランチミーティングに使わせてもらうよ」

「……うん」

朝食を終えて片付けをしていると、後ろから抱き締められた。うなじに唇が押しつけられる。

「……今……片付けてるから……」

「いいよ、そんなの。後でいい……」

エプロンを取られ、戸惑っているうちにボタンを外されたワンピースが肩からするりと床に落ちた。

「……ゴルフ行くんでしょ? 私も準備をしなくちゃ」

「いいから、な?」

ずっとなかった夫婦生活。
なのに、この前からまだ日があいていないのに求められて、戸惑いとともに軽い苛立ちを感じていた。
自分のものだから好きにして当たり前だという、
夫婦なら普通のことかもしれないことが、とても理不尽なことに思えた。

深いキスで肌にチクチクとあたる髭に、思わず顔をしかめてしまう。
この前も、今も、こんなふうに突然求められるようになったのは、独占欲なのか、確認なのか……。
支配されているようで、どうしても小さな反感を抱いてしまう……。
唇をねっとりと舐められ、トイレでのことが頭をよぎる。
ヌラヌラした舌が、乳首に絡み付くあの恐怖感……。

(嫌……やめて……)

それでも、拒否するわけにはいかず、震えてしまいそうになるのを必死で堪えた。
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