この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
二重生活
第8章 春風
麗らかな陽射しが降り注ぐ。
移ろいゆく季節。
テラスの花たちも次第に蕾を開き始め、東京でも桜の開花宣言が出された。
あれから、彗君とは相変わらず仲がよかったけど、二人で会うことはなかった。
これ以上近づいたらどうなってしまうのか、考えるとこわくて、逃げていたのかもしれない。
あの日、ゴルフから帰ってきた雄一は、さして「友達」については聞かずにすぐ寝てしまった。
雄一のその泰然とした態度も、少なからず鞠香の心にブレーキをかけていた。
きっと、確かめるように抱かれていたら、嫌悪や恐れのようなものを、決定的に感じてしまっていただろう。
彗君との時間を、より神聖なもののように感じてしまっていただろう。
でも、雄一は「いつもの雄一」だった。
習慣。
積み上げてきたもの。
何かを壊して始める勇気や覚悟もないのに、彗君と会うわけにはいかないと思った。
ここが、自分で選んだ終の住みかだから……。
そう言い聞かせては、バイトのあとすぐに帰宅して家事に精を出した。
彗君も、そんな鞠香の纏う空気を察していたのだろう。もう、鞠香に触れることも、誘うこともしなかった。
移ろいゆく季節。
テラスの花たちも次第に蕾を開き始め、東京でも桜の開花宣言が出された。
あれから、彗君とは相変わらず仲がよかったけど、二人で会うことはなかった。
これ以上近づいたらどうなってしまうのか、考えるとこわくて、逃げていたのかもしれない。
あの日、ゴルフから帰ってきた雄一は、さして「友達」については聞かずにすぐ寝てしまった。
雄一のその泰然とした態度も、少なからず鞠香の心にブレーキをかけていた。
きっと、確かめるように抱かれていたら、嫌悪や恐れのようなものを、決定的に感じてしまっていただろう。
彗君との時間を、より神聖なもののように感じてしまっていただろう。
でも、雄一は「いつもの雄一」だった。
習慣。
積み上げてきたもの。
何かを壊して始める勇気や覚悟もないのに、彗君と会うわけにはいかないと思った。
ここが、自分で選んだ終の住みかだから……。
そう言い聞かせては、バイトのあとすぐに帰宅して家事に精を出した。
彗君も、そんな鞠香の纏う空気を察していたのだろう。もう、鞠香に触れることも、誘うこともしなかった。