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二重生活
第8章 春風
麗らかな陽射しが降り注ぐ。

移ろいゆく季節。


テラスの花たちも次第に蕾を開き始め、東京でも桜の開花宣言が出された。


あれから、彗君とは相変わらず仲がよかったけど、二人で会うことはなかった。

これ以上近づいたらどうなってしまうのか、考えるとこわくて、逃げていたのかもしれない。


あの日、ゴルフから帰ってきた雄一は、さして「友達」については聞かずにすぐ寝てしまった。

雄一のその泰然とした態度も、少なからず鞠香の心にブレーキをかけていた。
きっと、確かめるように抱かれていたら、嫌悪や恐れのようなものを、決定的に感じてしまっていただろう。
彗君との時間を、より神聖なもののように感じてしまっていただろう。

でも、雄一は「いつもの雄一」だった。



習慣。
積み上げてきたもの。
何かを壊して始める勇気や覚悟もないのに、彗君と会うわけにはいかないと思った。

ここが、自分で選んだ終の住みかだから……。


そう言い聞かせては、バイトのあとすぐに帰宅して家事に精を出した。


彗君も、そんな鞠香の纏う空気を察していたのだろう。もう、鞠香に触れることも、誘うこともしなかった。
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