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二重生活
第8章 春風
春の足音とともに、彗君への想いが深くなっていることに、本当は気づいていた。

そして、以前のように、雄一がいなくても寂しくなくなった心の変化も。



昔、母にその寂しさをつい吐露したことがあった。
母は、
「『亭主元気で留守がいい』って、いつかだいたいの奥さんがそう思ってしまうものよ。私の友達なんて、旦那はATMだと思わなきゃやってられない、なんて言うもの。
でもね、鞠香。雄一さんがいなくて寂しいと思えることは、とても幸せなことなのよ。必要ってことなんだから。夫婦に、それ以上なくちゃならない気持ちってある?」

そう言って笑った。

「だから、あなたたちは大丈夫よ」と。


母、父、祖父母、義父母、兄弟……
繋がっている、大事な人たちがいる。
悲しむ人がいる。

だから、私たち夫婦は大丈夫じゃなくてはいけない。




彗君のことは、少し離れたところから、眺めていられるだけでいい。

何があるわけでもなくても、オシャレをしたり、メイクをしたり……
張り合いに満ちて、ウキウキと楽しくいられることに感謝して、


私は、彗君のファンでいられたらそれでいい。


彗君は、相変わらず、休憩時間には必ずいろいろなフレーバーのミルクティを淹れてくれた。

そのたび、切なくなってしまう気持ちだけはどうしようもなくて、それだけは自分に赦そうと思った。
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