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二重生活
第9章 fall in love
「鞠香、隣いい?」

リョウ君の声に、彩名ちゃんが過敏に反応した。

「ちょっとリョウ! なんで、呼び捨て?」

「なんで? ダメ?」

「ダメでしょ! だいたい鞠香さん結婚してるし、がっついても無駄だからね」

「彩名、妬くなって」

「はい? リョウだったら、直人のほーが全然いい」

突然名前を出された直人君が、ビールをふき出した。
「やだー。直人テイッシュ!」彩名ちゃんがそっちに気をとられている隙に、リョウ君が隣に座った。

「ねぇ、鞠香は彗が好きなの?」

今度は鞠香が飲んでいたビールをふき出しそうになる。

「見てればわかる……。旦那がいるのに、好きなんだ」

「……違う」

「いいよ、俺、悪い女大好き。とくに、鞠香みたいに上品でいい女が、いけないことしてるのってそそるよね。……でも、彗はモテるよ。ほら」

リョウ君の視線の先に、彗君が女の子たちに囲まれている姿があった。

「恋して、悶えて、傷ついて、泣けばいい。そして、最後に俺のとこにおいで。俺、鞠香に興味津々だから」

「……恋なんて、してないよ。リョウ君のところに行くこともないわ……」

あの夜のことは、リョウ君には知られたくなかった。
説明がつかない、この気持ちの正体も。

「ふーん、だったら彗のほうが惚れてるのかな。ねぇ、賭けしない? 今、俺が鞠香に触れるから、そのとき彗がこっちを気にしてたら、鞠香は俺の言うこと3つ聞くの。もし見てなかったら、俺はもう鞠香に近づかない」

「いや、そんなの」

「彗が、こっち見ると思ってるんだ。自信あるんだね」

「そんなことない」

「だったら、いいじゃん、ね?」

彗君のほうを見ると、女の子に向かって楽しげに笑いかけていた。

「わかった。こっち見てなかったら、私にもう話しかけないで」

「おっけ。いいねその顔。怒ってる鞠香、可愛いよ」

そう言って、グッと近づくと、一瞬おでことおでこをくっつけた。



「……!」
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