この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
助教 沙霧
第1章 沙霧 ~ストイックな古典和歌研究者~
 沙霧は短く吐息をつき、ペンを置いた。指先が微かに震えている。彼女はそれを隠すようにして両手を組み、深く目を閉じた。野卑た思考を霧散させなければならない。今は、研究者としての自分でいなければならない。しかし、閉じた瞼の裏には、先ほど読み解いていた和歌の一節が、呪文のように浮かび上がってくる。

「しのぶれど 色に出でにけり ...」

自分の意志とは無関係に動き出す肉体の疼きを、沙霧は理性の鎖で必死に繋ぎ止めていた。


 時計の針が午後六時を指した。周囲にいたわずかな学生たちも立ち去り、閲覧室には沙霧一人だけが残されている。窓の外は、濃密な夜の帳が降りようとしていた。沙霧はゆっくりと立ち上がり、机の上を片付け始めた。その仕草はどこまでも優雅で、無駄がない。だが、鞄を肩にかける際、厚手のブラウスが胸の尖りを微かに擦った。それだけで、彼女の喉の奥から小さな、熱い塊がせり上がってくる。

 誰にも気づかれぬよう、音を立てず、しかし深く息を吸った。沙霧の「日常」という名の演劇が終わり、孤独な夜が始まる。大学の正門を抜け、駅へと向かう道すがら、沙霧はいつものように「和歌研究者」としての鎧を纏い直す。背筋を伸ばし、視線を前方の一点に据え、隙のない歩調で歩を進める。沙霧の内側に、底なしの暗い欲望が渦巻いているなどとは、誰一人思いもしないだろう。
 帰宅すれば、清潔で無機質なワンルームが沙霧を待っている。そこは、彼女が唯一「沙霧」という女に戻れる場所であり、同時に、制御不能な自分自身と対峙しなければならない、最も恐ろしい戦場でもあった。

 沙霧は、夜の静寂の中に、自分を呼ぶかすかな声を聴いたような気がした。それは、まだ見ぬ誰かの声なのか、それとも、自分自身の奥底から湧き上がる叫びなのか。彼女は、その正体を知ることを、まだ恐れていた。

/37ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ