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乳牛メイドのホルスタイン あの、かけがえのない日々のこと
第9章 エピローグ かけがえのない日々のこと
 一人で暮らすには広い邸宅をいつまでも綺麗に保とうと掃除し、坊ちゃまの位牌に毎日両手を合わせる日々。

 坊ちゃまとの暮らしで身につけた学問を少しでも社会に役立てようと、週に何度かは近所の子供たちを家に招いて読み書きや計算を教えている。


 ささやかな月謝から坊ちゃまが働いていた学術院に寄付をして、学術院の研究者からは坊ちゃまが生前に発表した論文が今も引用され続けているとの知らせが届く。

 そして研究者たちは坊ちゃまの遺体から得られた標本を顕微鏡で観察し、その結果を新たな論文として発表するという。

 医学研究の礎として、そしていずれ誰かの生命を救う手がかりとして、坊ちゃまはこの世界に生きた証を残し続ける。



 私は幸せだった。

 いや、今も幸せなのだろう。

 思い出の中で、坊ちゃまは永遠に私の最愛の人でいてくれるから。


 読み書きや計算を教えている幼い女の子の母親に出版社で働いている人がいて、彼女は私の噂を聞いて坊ちゃまとの思い出を手記にして出版しませんかと提案してくれた。

 本当に世に出せるものになるかは分からないけれど、今の私は寝る前の時間を使って手記を執筆している。

 坊ちゃまの名誉を侵害するような内容は避けて、美しい思い出だけを物語として残そうとしている。


 「かけがえのない日々のこと」。

 そう題された坊ちゃまとの思い出が、いずれ世の中に広く読まれる日が来るのかも知れない。


 それでも、坊ちゃまとの本当の思い出は私の心の中だけにそっと秘めておこう。


 私と坊ちゃまは、今でも熱く燃えるような愛を交わして生きている。

 坊ちゃまが私の中に残した熱は、きっといつか私の中で芽吹いていく。


 (完)
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