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『春雷』
第1章 春雷
 2

 その姿はまるで…
 桜吹雪の中で舞い踊っているような艶やかさであった。


「み、美春…」
「あ………祐輔ぇ…」
 俺は、そんな春美が愛おしく、堪らずに後ろから抱き締めてしまう。

「あぁ、やっぱりダメだ…離れたくない……」
 そして耳元で、そう未練を囁く。

「あぁ…うん……わたしも……よ………
 で、でもね……
 無理よ、無理なの……
 アナタも分かってるでしょう………」

 それは分かってはいた………
 もう二人の愛は限界なんだ………と。

「もう無理なのよ…
 わたしはもうこれ以上隠せないの……」
 美春は、左手で髪をかき上げながら、遠くの稜線を照らす、春雷の煌めきを見つめていく。

 そして、そのかき上げる薬指にも小さな輪が煌めいている…

「あ……うん………」
 それは俺にも分かってはいた…
 もう限界…
 これ以上は隠せない…
 このままでは妻を抱くどころか…
 言葉さえ交わせなくなってしまう………と。

「もう、今、ううん、今夜しかないの……」
「……………」

 そう、今夜が最後…
 別れの夜、別れに相応しい夜………
 この舞い踊る桜のように…
 キレイに散りたい………
 そう春美は云った。

 だが、突然……
「きゃぁぁっ」
 眩い稲光の閃光が走り…
 激しい雷鳴が鳴り響いたのだ。

「あ、い、い…や……」
 俺は、その突然の春雷の雷鳴におののき、しがみ付いてきた春美を抱き締め、キスをする。

「あ……い、ぃ……ゃ…………」
 だが、その抗いは、力なく…
 いや、春美と俺は融けていく。

 もう俺たちは、離れられない………

 それは春雷の悪戯……


「ぁぁ……も、もう…知らない…から…」
 そう潤んだ目で見つめ、囁く春美の後ろには…
 春の夜を冷たく照らす…
 蒼い下弦の月が浮かんでいた……



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