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闇夜を彩るアラベスク
第1章 おひつじ座の男
悠真の声に気づいた女性が「あら?」と同じように声をあげて、小走りで近づいてきた。
「えっと…瑠奈ちゃんのお父さまですよね?」
そう、紙袋を大事そうに抱えていたのは、娘が通うスイミングスクールでコーチをしていた木ノ下香苗であった。
「やはり先生でしたか…いやぁ、私服だとイメージがずいぶんと変わるものですね」
「ええ、皆さんそう仰います
今日は…お一人ですか?」
「あ、娘と家内は別の用事で出掛けているものですから、僕は暇潰しで…」
まあ、そうでしたか、それでは失礼します
そう言ってペコリと頭を下げると香苗はその場から離れていこうとする。
「あ、あの…」
せっかくこうして会えたのだから、挨拶だけで終わるのはもったいないと思って、悠真は慌てて彼女に声をかけた。
「はい?何でしょう?」
「さっきも申しました通り、暇潰しで出掛けてきたのはいいけれど、一人で昼食ってのも味気ないものですし、よかったらご一緒しませんか?」
「あら?ご馳走していただけるの?」
「ええ、もし先生さえ良ければ…」
「先生って呼ばないでくださいよ
私服の私は単なる一人の女ですから」
「えっ…じゃあ、何と呼べば…」
「香苗でかまいませんよ
その方が親密になれますし」
親密というワードでもしかしたらワンチャンあるのかもと「じゃあ、僕はお父さまでなく、悠真と呼んでください」
「わかりました。で、悠真さん、何をご馳走していただけるのかしら?」
名前で呼ばれると、一気に香苗を可愛いと思い始めた。

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