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SAKURA(さくら)
第3章 ソメイヨシノ 2 美卯
 3

「ねぇ慶太、わたし四月から『事業計画部』に異動になるの」

「え、そうなんだ」

「うん、弥生課長の旦那サマの統括部長がさぁ…
 自分の昇進と一緒に、引っ張ってくれるんだってぇ…」

「じゃぁ、お祝いしないとなぁ」

「じゃ、あの公園の夜桜に行きたぁい…」

「うん、明日行くかぁ」


 だけど、次の日―――

「ごめん、また、残業になっちゃった…」

「え、そうなの…」

「うん…弥生課長に頼まれちゃってさぁ…」

「え、弥生課長に………」

「あ、う、うん」

 慶太の目が、一瞬、逸れた―――

「………」

「ど、同行予定の見積もりがさ……」

 慶太は、嘘が下手…

 そこが、好きな一つでもあったのだが…

 下手過ぎるのも、罪だ―――

「す、数字が、合わなくて…さ……」

 手にするペンが、微かに震えている―――

「そ、そうなんだ……」

「あ、明日なら…」

「う、うん………」

 胸が、騒つき…

 無意識に、奥のデスクに目を向ける。

「………っ」

 弥生課長が…

 こっちを見ていた―――

 咄嗟に、下を向いたみたいだが…

 間違いなく、見ていた。

「うん、残業なんだから…
 あ、明日で……いいわ…よ……」

「あ、ご、ごめん……」

 その時…

 わたしの鼻腔の奥に…

 ムスク…

 シャネル…

 あの二人の、異なる香りが、甦り…

 心を、騒つかせてくる―――

「………」

 再び、デスクの奥を見る…

 でも、もう弥生課長は、席を離れていた。

 そして…

 静かな水面は…

 大きく揺れはじめてきた―――



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