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SAKURA(さくら)
第3章 ソメイヨシノ 2 美卯
 9

「……ぁ………」

 高層ホテルの窓から、春暁の朝日が照らしていた――

 呼吸が、まだ、整わない。

 部長は…

 若さだけの慶太とは、全然違った。

「………すぅ……」

 布団に潜り、胸元を確かめる…

 もう、シャネルは、消せた――

「うぅ………」

「あ、ごめんなさい、起こしちゃいましたね…」

「あ…うん……」
 首をひねり、枕元の時計を見る。

「あの…」

「ん…」

「お時間…いいんですか………」

「え、あ、うん、いいんだ…」

「やよ…あ、だ、大丈夫なんですか…」

「う、うん…もう…あ…別に…かまわない…」

 そう呟き、わたしを抱きしめてくる。

「………」

 顔を、寄せ…

「うん…いい香りがするな…」

「はい…『サクラ』…春の香りです……」

「そうか…いい香りだ……」

「………」

「ネクタイ……」

「あ……」

「してくださいね……」

「うん、もちろんさ……」

 ふと、朝日に照らされた窓を見る…

「あら…」

 満開を過ぎたソメイヨシノの花びらが、朝露に濡れた高層の窓に…

 幾枚か、張りついていた――

「さっき…」

「え…」

「何回か、スマホが鳴っていたみたいな…」

「………」

 それは、慶太から…

 連絡すると、ワザと云ってあったから。

「いいのか…」

「……はい…いいん…です……」

 わたしは、そう囁き…

 唇を、向ける。

「……そうか………」

 抱き寄せられ…

 唇が、寄ってくる。

「四月が…待ち遠しいな……」

 あと、三日…

「は…い……」

 そう…

 いいんだ…

 今は…いい―――

「………」


 今は…

『サクラ』を、残しておけばいい―――



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