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SAKURA(さくら)
第1章 しだれ桜
 3
 
 あの同期の、何気ない言葉から…

 弥生さんから、目が離せなくなってしまった。

 そしてそれは、美卯にも気付かれてしまったみたい…

 背中からの、熱い視線を感じるから。

 弥生さんへの憧れは…
 同時に、嫉妬を生んだ。

 でも、それは嫉妬というより、ヤキモチ…

 だって…
 弥生さんは一回り近い年上の課長であり、昇進目前である部長の、妻だから。

 あり得ないから―――

 だから、昨夜の夜桜の誘いに繋がり…

『もう二年になります…』
 心に釘を刺す意味での、そんな、あの言葉だったのだと思う。

 それに俺には、姿を追い、眺め、たまに言葉を交わすだけで十分であったから…
 いや、美卯がいるからこそ、憧れで満足していた。

 だが…

 ほんの些細な、小さなことが…
 心の中の穏やかな水面を、揺らがせてしまった。

 それは…

「ねぇ、慶太くん、今夜、少しだけ残業お願いできないかしら」

「はい、いいっすよ」

「月曜の朝イチで見積りを出したいから、どうしても今日中に終わらせたいのよ…」

「はい…」
 弥生さんは、本当に申し訳ない感じで言ってくる。

「せっかくの金曜日なのに、ごめんなさいね」

「いや、用事もないし、平気っす」

 金曜日の、美卯のいない夜の…
 変な勘繰りから逃げられるいい理由になるから、かえってありがたい。

「本当に、ごめんなさいね、すぐに、片付けちゃいましょうね」

「はい、平気っすから…」
 むしろ、弥生さんと二人になれる、それが、逆に、嬉しいくらいだったのだが……

「あら、ヤダわ、ストッキングが伝線しちゃったわ…」
 
 この、何気ない一言が…
 俺の心を揺らがせ、波紋を広げてくる。

「…慶太くんと二人だし…いいわよね……」

「…………」

 俺は、それから、その弥生さんの脚に…

 左脇に走る、ストッキングの一本の伝線のほつれから…

 目が、離れなくなっていた―――
 

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