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SAKURA(さくら)
第1章 しだれ桜
 4

「ふうぅ、なんとか終わったわね」

「はいっ」

「慶太くん、ごめんね、ありがとう」

「いや、仕事っすから」

「ううん、なんだかさぁ、他の人に頼みづらかったしさぁ」

「いや、おやすい御用っすよ」

「あ、もうこんな時間ね、お腹空いたでしょう…」
 午後九時を過ぎていた。

「ねぇ、ごはん食べに行きましょうよ、お礼にご馳走するからさぁ」

「あ、い、いや…」

 胸が、わずかに跳ねる…

「ね、わたしもお腹空いちゃったしさぁ…」

「あ、でも…」

 本当は、行きたい…

「あ、そうかぁ、美卯ちゃんに怒られちゃうかぁ?」

「い、いや、それはないっす…」

 そういえば、寝ているのか、美卯からのLINEもない…

「うん、じゃぁ、行きましょうよ、ナイショにすればいいんだし」

 俺には、断る理由はない…

 そして、弥生さんの…
『ナイショに…』
 その、何気ない呟きに、更に、波紋が広がってしまった。

「うーん、じゃぁ、どこにしようかなぁ」

 弥生さんは、心なし、嬉しそう…

「明日お休みだしさぁ…
 少し、お酒も飲みたいしぃ…」

「は、はい…」

 鼓動が、落ち着かない…

「あ、あそこはどう…
 ほら、駅前に新しく出来たワインバー」

「はい、いいっすね」

 弥生さんとなら、何処でもいい…

「じゃ、決まりね、行きましょう」
 そして、外に出た。

「まだ、夜は、寒いわね…」

「………っ」

 外に出た瞬間、弥生さんはそう呟き――
 ふいに、腕を絡ませてきた。

「ふう、寒いぃ」
 
 俺は、一気に昂ぶる…

「あら…」
 
 すると、微かな夜風に、ひらひらと、さくらの花びらが舞い…

「きれいね…」

 見上げたビルの隙間には…
 春の、蒼い、上弦の細い月が浮かんでいた。

 会社から、駅前までの僅かな道程…

 絡む腕の熱さと…

 弥生さんの、甘い香り…

 心の波紋は、もう、静まりそうもなかった。



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