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SAKURA(さくら)
第1章 しだれ桜
 5

「お疲れさま…」
 赤ワインの、グラスを合わせる。

「やっぱり週末ね、混んでるわねぇ」 

「そうっすね」

 週末の金曜日、オープンしたての駅前のワインバー…
 ほぼ満席で、俺たち二人はカウンターに案内された。

「それに、周りはカップルばっかりだし」
 弥生さんは周りをチラと見回し、そう呟く。

「いや、お、俺たちも、カップルっすよ」

「あら、そう、そう見えるかしら…」

「見えるっすよ…」

「なら、よいけど…」
 そう囁く弥生さんの唇が、やけに、赤く、艶やかに見えた。

「カウンターだしね…」

「あ、いや…」

 俺は、カウンターでよかった…

「さ、何食べようかしら、ほら、慶太くん、遠慮しないで頼んでね」

「あ、はい…」

 赤ワインなんて初めてだし、それに、何を頼めばいいのかさえわからない…

「あ、な、なんでも…いいっす…」

「あら…そう…うん、わかったわ…」

 弥生さんは、一瞬、俺の目を見つめ、そんな思いを理解してくれたようで…

「じゃ、わたしが適当に頼んじゃうわよ」

「はい…」

「うんとぉ、なにがいいかなぁ…」

 この、可愛ささえ感じる横顔…

「チーズは?」

「好きっす」

「なんでも食べられる?」

「はい…」

 年上…

 上司…

 そして、部長の奥さん…

 そんな重さが、どこか遠のいていく―――

「ふうぅ、美味しいわねぇ……」

 初めての赤ワイン…

 横並びのカウンター…

 心を擽る、甘い香り…

 たまに触れる肩と、脚…

 心の境が、曖昧になってしまう―――


「久しぶりに、楽しいわ…」
 
「え、そうなんすか…」

「うん…」

 ワイングラスを持つ左手に…
 指輪の痕が…

「あ、これ…」

「あ…」

 俺の視線を感じたみたい…

「うん、ちょっとね…」
 
 そう呟き、スッと左手を上げ…

「ちょっと……外してみたのよ………」
 
「……………」
 
 どう応えてよいのか、わからない…

「色々…あるの…よ………」

 近くすぎる香りに…

 なにかが、ひとつ、消えていく―――


 
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