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SAKURA(さくら)
第7章 八重桜 3 本部長
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「…………ん…」

 ふと、目覚めると…

 柔らかな感触と、淡く、甘い香りを感じる。

「…………」

 若い彼女、美卯が…

 私の腕の中で、穏やかな寝息を立てていた。

「ふぅ……」

 腕の中から漂う、淡くて甘い香りが心地よい…

 いや…

 一気に、昨夜の情欲を、脳裏に甦らせてきた。

「…………」

 顔を横に振り、窓を見ると…

 まだ、明けきらぬ、春暁の紫色の夜空が覗める。

「すぅぅ……」

 息を吸い、美卯の香りを認め…

『これ、Diorのサクラっていうフレグランスなんです…』

 しっとりと甘い、妻、弥生のムスクとも違う…

 成功を象徴し、心を占有してきた、めいの甘いシャネルとも違う…

 この淡い、美卯の香りが、心を穏やかにしてくれる。

 本部長…

 とりあえず、ひとつの階段は昇り切った。

 しばらくは、ここで実績を積み上げ、次の新たな階段を昇る時を、待つ――
 
 それには、この美卯の若い力が必要だし…

 いや、魅力溢れる彼女自身も、欲しい。

「………」

 左手を延ばし、スマホを取る。

「………」

 昨夜のLINEの、返信はない…

 いや、既読すらない。

「ふぅ……」

 そして、左手指を見る。

 昨夜、指輪を外した――

 もう…

「………んん………」

 腕の中で、美卯が、目を開く…

「ぁ……」

 恥ずかしそうに呟く…

「…まだ……夜明け前だよ……」

「………」

 そっと彼女を、抱きしめ…

 そして、指輪の無い左手で、髪を撫でながら…

 もう…

 指輪をすることは、無いだろう――
 
 そう、思っていた。


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