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愛する男と人妻美香の秘め事
第40章 熊本旅行・終焉(8)
彼はお菓子に噛り付き、コーヒーに口をつけると、
「お菓子は美味しいけど、コーヒーは冷めてるな」
「それは私がさっきまで飲んでたコーヒーです・・コーヒー飲みたければ買ってきたらどうですか?」
私はむうっと、頬を膨らませ、子犬のように眉を寄せながら彼の肩をパチパチと叩いた。
「いや、いい。この景色の中で美香の傍で飲むこのコーヒーは格別だ」
「あっ、そう。ではご自由に」
冷めたコーヒーはすぐに無くなったようで、カップを裏返しで持ったまま遠くを見つめる彼の横顔をじっと見つめた。気が付くと、私の周りに流れる観光客の声や車の排気音などの雑多な音は、草千里の緑の絨毯に吸い込まれるように希釈され、コーヒーの一滴の雫が地面に落ちるような静けさに包まれていた。
「あっ、そうだ」という私の声と彼の声が完全にシンクロした。
「何?」
「いや、Iくんこそ、何なの?」
「美香、ウェットティッシュ持ってる。ほら、靴底がこんなに汚れちゃったからさ、拭かないとレンタルの車汚しちゃうからさ。持ってたら頂戴よ」
私はビスの付いた黒い鞄の中からウェットティッシュを数枚取り出して、彼に渡した。
靴底を拭きながら、「美香はさっき何を言おうとしたの?」と聞かれ、
「いや、別に・・もういいわ」と素っ気なく答えた。彼は、そう、とだけ言うと、また靴を拭き始める。
(アイスクリーム、一緒に食べようって言いたかったけど、もういいわ)
草千里を後にし、熊本空港へと車を走らせた。田舎の雰囲気が私の心を大らかにさせるのか、それとも確実に短くなっていく熊本での時間を惜しむ気持ちの代弁なのか、私は彼に車の中で何度もキスを求めた。車が止まるたびにキスをした。長い停車の時には長いキスをした。触れ合えなくなる時間が来る怖さの気持ちから、シフトレバーを握る彼の左手の上に私の指先を乗せた。
彼の左手の薬指には銀色の指輪がはまっている。最初は緩くてクルクル回る指輪を、指周りぎりぎりの大きさに作り直してから指が太くなったので、今では抜けないらしく、私と会うときも彼の細い薬指には彼の奥さんとの思い出が詰まった指輪が存在している。だから、私は指輪を避けながらのタッチだが、それでも彼の手の感触と温かさを感じるには十分だった。
「お菓子は美味しいけど、コーヒーは冷めてるな」
「それは私がさっきまで飲んでたコーヒーです・・コーヒー飲みたければ買ってきたらどうですか?」
私はむうっと、頬を膨らませ、子犬のように眉を寄せながら彼の肩をパチパチと叩いた。
「いや、いい。この景色の中で美香の傍で飲むこのコーヒーは格別だ」
「あっ、そう。ではご自由に」
冷めたコーヒーはすぐに無くなったようで、カップを裏返しで持ったまま遠くを見つめる彼の横顔をじっと見つめた。気が付くと、私の周りに流れる観光客の声や車の排気音などの雑多な音は、草千里の緑の絨毯に吸い込まれるように希釈され、コーヒーの一滴の雫が地面に落ちるような静けさに包まれていた。
「あっ、そうだ」という私の声と彼の声が完全にシンクロした。
「何?」
「いや、Iくんこそ、何なの?」
「美香、ウェットティッシュ持ってる。ほら、靴底がこんなに汚れちゃったからさ、拭かないとレンタルの車汚しちゃうからさ。持ってたら頂戴よ」
私はビスの付いた黒い鞄の中からウェットティッシュを数枚取り出して、彼に渡した。
靴底を拭きながら、「美香はさっき何を言おうとしたの?」と聞かれ、
「いや、別に・・もういいわ」と素っ気なく答えた。彼は、そう、とだけ言うと、また靴を拭き始める。
(アイスクリーム、一緒に食べようって言いたかったけど、もういいわ)
草千里を後にし、熊本空港へと車を走らせた。田舎の雰囲気が私の心を大らかにさせるのか、それとも確実に短くなっていく熊本での時間を惜しむ気持ちの代弁なのか、私は彼に車の中で何度もキスを求めた。車が止まるたびにキスをした。長い停車の時には長いキスをした。触れ合えなくなる時間が来る怖さの気持ちから、シフトレバーを握る彼の左手の上に私の指先を乗せた。
彼の左手の薬指には銀色の指輪がはまっている。最初は緩くてクルクル回る指輪を、指周りぎりぎりの大きさに作り直してから指が太くなったので、今では抜けないらしく、私と会うときも彼の細い薬指には彼の奥さんとの思い出が詰まった指輪が存在している。だから、私は指輪を避けながらのタッチだが、それでも彼の手の感触と温かさを感じるには十分だった。

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