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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第25章 ガラス越しの裏切り
(ガラリ……、ピシャリ)
重いガラス戸が、雄一と二人の世界を物理的に分断するように、しっかりと閉められた。 雄一は一人、室内に取り残された。目の前のガラスの向こう側では、深夜の冷気に湯気が白く立ち上り、月光が二人の全裸の肢体を青白く照らし出している。
湯船に浸かる前、鬼頭は手桶を手に取った。 彼は淀みない動作で、澪の肩から、そして二人の情事の痕跡が残る太腿へと、丁寧に湯をかけていく。その様子は、まるですでに何年も連れ添った夫婦か、深い仲にある恋人同士のような、あまりにも自然で親密な光景だった。
雄一は、レンズ越しにその光景を凝視する。 自分の知らない男が、自分の妻の体を慈しむように洗い流している。その様子は、もはや略奪者と被害者という関係を超え、どこからどう見ても、一組の「深い仲の男女」そのものだった。
やがて、二人はゆっくりと湯船の中へと身を沈めた。 しかし、その瞬間に雄一の胸を掻き乱したのは、二人の異常なまでの距離の近さだった。肩までしっかりと湯に浸かりながら、鬼頭は当然のように澪の細い肩を引き寄せ、その白い肌に自分の野卑な肉体を隙間なく密着させている。
ファインダー越しに見える二人は、音の遮断された「無声映画」のようだった。 厚いガラスに阻まれているせいで、鬼頭が何を囁いているのか、一切聞こえない。ただ、鬼頭が澪の耳元で何事かを、口を休めることなく熱心に、そして延々と話し続けていることだけがわかる。
澪は、初めはひどく嫌な顔をしながら聞いていた。時折、強く拒絶するようにかぶりを振る。
(……何を話しているんだ? 何を約束させようとしている?)
雄一の焦燥感が頂点に達したとき、数分間の問答を経て、あれほど頑なに首を振っていた澪が、うなだれるようにして、静かに、しかし明確に、一回だけ深く頷いた。
その瞬間、鬼頭の表情がパッと明るくなったのが見て取れた。 彼はよほどその返答が嬉しかったのか、目に見えて上機嫌になり、さらに饒舌にしゃべり始めた。勝利を確信した者の快哉を叫ぶような、あるいは二人のこれからの「関係」を語るような、誇らしげで陶酔した表情。 何かに頷いた妻と、それを受けて狂喜する男。ガラス一枚の隔たりが、その「密約」の正体を雄一から隠し、彼の疑心暗鬼を底なしの暗闇へと突き落としていく。
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