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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第39章 そばにいる覚悟
鬼頭が手配したタクシーの車窓から、夜の街を眺める。つい先ほどまで別の男に翻弄され、自らも声を上げていた自分が、今から愛する夫の待つ自宅へ帰る。その矛盾に激しい自己嫌悪が込み上げた。
自宅に着いたのは、20時を回る少し前だった。澪は玄関の前で何度も深呼吸をし、秘書としての仮面を無理やり貼り付けてドアを開けた。
「ただいま……」
「おかえり、澪。少し遅かったね」
リビングから、就職活動の資料を広げていた雄一が立ち上がった。その穏やかな笑顔を見るたび、澪の胸には鋭い刃が突き刺さる。
「ごめんなさい、雄一さん。急な仕事が入ってしまって……」
「いや、頑張ってる君にそんな顔をさせるなんて、僕の力不足だよ。お疲れ様、澪」
雄一が労うように澪の肩に手を置いた、その時だった。彼の鼻先が、澪の首筋に近いところで不自然に止まった。
「……澪。この匂い、何?」
澪の心臓が跳ね上がった。シャワーも浴びず、鬼頭の体臭や、男と女が激しく混じり合った際の湿り気を帯びたような、独特の淫らな残り香を纏ったまま帰宅してしまったのだ。
「あ……これは、取引先の方が吸っていらしたシガーの匂いが移ったのかも……」
「そうかな……。それにしては、もっとこう……少し生臭いというか……」
雄一の目が、澪が隠すように持っていた紙袋に向けられた。
「その袋、仕事の書類か何か?」
「え、ええ……。明日の商談で使う、大切なもので……」
動揺を隠せない澪の手から、雄一がふと袋を手に取った。
「危ないよ、そんなに強く握りしめたら中身が傷む。僕が預かって……」
「だめ! 返して!」
澪が思わず叫んだ。その異常な拒絶反応に、雄一の顔から血の気が引いていく。彼は無言のまま、ゆっくりと袋の中を覗き込んだ。
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