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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第95章 女体の摂理がもたらす刹那の静けさ
地獄の淵で、二人は初めて、深く息を吐き出すことができた。それは、この不条理な世界の中で、彼らが手に入れた、ほんの少しだけ喜ばしい奇跡の瞬間だった。
プライベートクリニックの静まり返ったロビーに戻った雄一は、まだ現実感が掴めないまま、ポケットから携帯端末を取り出した。医師が鬼頭に伝えてくれると言ってはいたが、やはり夫である自分から直接、速やかに報告の電話を入れるのが義務であり、何より鬼頭の出方をこの目で、この耳で確かめなければ安心はできなかった。
雄一は小さく息を整え、鬼頭の番号をタップした。スピーカーから響く無機質な呼び出し音が、雄一の心臓を不快に揺さぶる。隣に座る澪は、祈るように両手を胸の前で握り締め、雄一の横顔をじっと見つめていた。
数回目の呼び出し音の後、不意に接続音がして、あの低く、地を調うような冷徹な声が響いた。
「私だ。……どうした、雄一くん。処置は終わったか?」
「鬼頭さん、今、クリニックでの診察と処置が終わったところです。それで、その……報告なのですが……」
雄一が緊張で声を詰まらせながら切り出そうとすると、受話器の向こうで鬼頭は短く、低く笑った。
「わざわざ報告には及ばないよ。先ほど、お抱えの医師から直接私のところに連絡が入った。澪くんがちょうど今、月経を迎えたそうだな」
鬼頭の声には、予定を狂わされたことに対する怒りや苛立ちは微塵も含まれておらず、相変わらず底知れない余裕に満ちていた。医師からの正確な医学的報告を受け、すべてを把握しているようだった。
「はい……。医師からも、現在の状態では非常に傷つきやすく感染症のリスクもあるため、1週間ほどは性行為を控えるようにと強く言われました」
雄一は医師の言葉を盾にするように、慎重に言葉を選んで伝えた。鬼頭がどう反応するか、生唾を飲み込んで待つ。
「ふっ、医学的な見地からの忠告ならば従わざるを得まい。俺は無理矢理に暴力を振るう趣味はないからな。……いいだろう。明日、仕事が終わった後に予定していた西新宿のマンションでの件は、来週に延期とする」
鬼頭の口から「延期」という明確な言葉が出た瞬間、雄一は目に見えない巨大な重圧から解放されるのを感じた。明日の夜、あの密室で澪の唇もナカも全てが蹂躙されるはずだった恐怖の予定が、ひとまず消え去ったのだ。
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