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影を背負った愛~足りない愛を、君に
第16章 会社で疼く恋~平日の秘密の距離/火曜日~
彼は片手で資料の束を持ち、もう片方の手をポケットに入れたまま、
ゆっくりとブースの中へ入ってきた。

ドアを半分閉めるような仕草で、彩香との距離を詰める。

「……彩香」

低く、優しいのにどこか意地悪さを含んだ声。
彩香は床にしゃがんだまま、完全に固まってしまった。

スポンジを持った時のように、手が止まり、息も浅くなる。

(……来ちゃった……
近い……健治さん、近いよ……!)

健治さんは彩香のすぐ横まで歩み寄り、しゃがみ込んだ彼女を見下ろした。

深く刻まれた皺の間の鋭い眼差しが、彩香の赤くなった耳と俯いた横顔を捉える。

「紙が切れたのか? 手伝おうか」

穏やかな声。

でもその声の奥に、昨日給湯室で囁いた甘い響きが混じっている気がして、
彩香の心臓が激しく鳴った。

「……お、大内……さん……」

声が上ずる。
立ち上がろうとしたが、足が震えて上手く力が入らない。
むっちりとした太ももがわずかに擦れ合う。

健治さんは彩香の反応を見て、口ひげを指で軽く撫でながら小さく笑った。

「ふっ……また避けてるな。
朝から俺の顔見るたびに固まるし、LINEもスタンプばかり。
可愛いけど、ちょっと寂しいぞ」

彼はしゃがんだまま、彩香の腰の近くに片手を添えた。

エプロン姿の時と同じように、自然に、でも確実に彼女を囲う位置。

彩香は慌てて首を横に振ったが、視線は合わせられない。

「……ち、違うんです……ただ、その……
昨日のこと思い出して……会社で顔見たら、変な顔しちゃいそうで……」

声がどんどん小さくなる。

健治さんは低く笑い、彩香の顎に指をかけ、優しく上を向かせた。

ブースの外からは見えない角度で、二人だけの空間。

「意地悪したくなったのは俺の方だ。
お前が一生懸命避けようとしてる顔が、たまらなく可愛い」

「……っ!」

彩香の頰が一瞬で真っ赤に染まる。

健治さんはさらに顔を近づけ、口ひげの感触が頰に触れそうな距離で囁いた。

「土曜日まで我慢しろと言ったのは俺なのに……
彩香、お前がこんなに可愛く避けてくるから、余計に抱きたくなる」

彩香の体がびくんと震え、印刷機の横に手をついた。
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